「獅子・狛犬」2023年06月15日

姫君のお道具と髪飾り展


 岡山・吉兆庵美術館にて開催中の「姫君のお道具と髪飾り展」では、大名家の姫君の婚礼調度や、江戸時代から昭和初期にかけて女性たちを彩った髪飾りを展示しています。
 今回の「美術館のピックアップ情報」では、婚礼調度品に描かれた狛犬をご紹介いたします。

「松竹梅藤巴紋蒔絵厨子棚」


 福岡藩黒田家伝来の「松竹梅藤巴紋蒔絵厨子棚」には観音開きの扉があり、その内側には獅子・狛犬が描かれています。現在では両者を合わせて“狛犬”と呼ぶことが多いと思います。しかし、正確には向かって“右側が獅子、左側が狛犬”で、本来は別々の存在だったのです(右下の写真が獅子 左下の写真が狛犬)。

 獅子・狛犬の起源は古代メソポタミアのライオン像までさかのぼることができます。その後、仏教と共にインドと中国を経由して、日本には「獅子」として伝来しました。

 一方、平安時代になると日本国内で生まれた霊獣の「狛犬」が上記の「獅子」と対になる動物とみなされ、宮殿などの神聖な場所をこの二頭が守ってきました。当時の古文書である「類聚雑要抄(るいじゅぞうようしょう)」には、「獅子は色が黄色く、口を開けていて、狛犬は色が白く、口は閉じ、角がある。」と記されてあり、当時の獅子・狛犬の特徴が明確に確認できます。しかしながら、江戸時代以降になると狛犬の角は省略されるようになり、現代にいたります。ほとんどの神社では角のない狛犬が見られるのもそのためです。

 当館で展示中の「松竹梅藤巴紋蒔絵厨子棚」には角のついた狛犬本来の姿が描かれています。黒田家の婚礼調度品に獅子・狛犬が描かれたのは、姫君の行く末を守るためであると考えられるでしょう。

「獅子・狛犬」